画面が変わって漁港が映し出された。
 乗組員の家族が漁協の建物に集まっていた。
 誰もが悲痛な表情を浮かべていた。

 若い女性がクローズアップされた。
 両手で顔を覆っていた。
 その祖母らしき人が彼女の背中を擦っていた。
 祖父らしき人が彼女の肩に手を置いてインタビューに答えていた。
 彼女の婚約者がその船に乗っていて、来月結婚式を挙げる予定なのだという。

「この子が赤ん坊の時に漁に出ていた両親が海で亡くなって、その上婚約者まで……」
 声が途切れた。
 唇が震えていた。
 目は真っ赤になっていた。
 凍てつくような空気がその場を支配した。
 それが永遠に続くかと思われた時、老人が無理矢理という感じで涙を拭って掠れた声を絞り出した。
「無事帰ってくることを」

 その途端、彼女が嗚咽を漏らした。
 祖母の目から大粒の涙が零れた。
 インタビュアーも目を真っ赤にしていた。
 居たたまれなくなったように画面が変わり、荒れた北の海が映し出された。
 海鳴りが聞こえたような気がした。そ
 れは、彼女の悲痛な叫びのように感じた。
 もうテレビを見ていられなくなった。
 
 トイレに行って個室に入り、トイレットペーパーを破って鼻を噛んだ。
 オシッコはしなかった。
 手を洗って席に戻った。

 食欲はなくなっていたが、運ばれてきた生姜焼き定食を見たらお腹が鳴った。
 朝食を食べていなかったからペコペコだった。
 美味しいとは感じなかったが、なんとか食べ終えた。
 しかし、みそ汁はほとんど残した。
 北の海に見えて飲む気がしなかった。
 助かりますように。
 みそ汁に向かって手を合わせた。