採用面接から少し経った日の午後、意を決して部室に向かった。
 プロへの挑戦を断ることを告げるためだ。

 部室に入ると、彼らが待ち構えていた。
 いつもの椅子に座ったわたしは、突き刺さるような視線を避けて、うつむき加減で声を絞り出した。
 彼らは腕組みをして睨みつけるような目で聞いていた。

「済みません」
 エレガントミュージック社からの採用通知を右手に握りしめたまま、頭を下げた。
「なんでだよ~」
 タッキーがやり切れないというような表情で言葉を吐き出した。
「留年までしたのに」
 ベスが虚ろな目で天井を見上げた。
 キーボーは何も言わず窓の方を見ていた。
「済みません」
 掠れた声でもう一度言うと、その後は沈黙が続いた。
 永遠に続くかと思うほど長い沈黙だった。
 息苦しさに窒息しそうで、逃げられるものなら逃げ出したかった。
 血が出るかと思うほど唇を噛んだ。

「俺たちは、やるよ」
 沈黙を破ったのは、キーボーの絞り出すような声だった。
「スナッチがいなくても、俺たちはやるんだ」
 そしてタッキーとベスに向かって、「やるよな、俺たちだけでも」と念を押した。
 2人は当然というように大きく頷いた。
 何も言えなくなってうつむくと、
「これっ切りだな」という声が耳に届いた。
 タッキーの最後通牒(つうちょう)だった。
 顔を上げると、ベスが頷いていた。
 キーボーは睨みつけるような目で見ていた。
「済みません」
 それ以外の言葉が見つからなかった。
「済みません」
 ただ頭を下げるだけだったが、ギーという音がしたので顔を上げると、部室のドアが開いて、出ていく姿が見えた。
 バタンとドアが閉まって見えなくなると、大事な宝物を失ったような気がして目の前から光が消えたように感じた。
 頭を抱えてしゃがみこんだ。
 そして動けなくなった。