管理職のようなキチっとした髪型の面接官が口を開いた。
「卒論、楽しく読ませてもらったよ」
「ありがとうござます」
「『マーケティング的見地から見たロックビジネス』というタイトルだけど、参考文献か何かあるの?」
「いえ、ありません。レコード会社や放送局のディレクターにインタビューしてまとめました」
「ほう、たいしたもんだね。ところで、マーケティングの勉強は?」
「澤ノ上教授のゼミで勉強しています」
 すると目が一瞬大きくなった。
「あの澤ノ上教授?」
「そうです。その澤ノ上教授です」
 今度はキチっと髪型男がホーっと言ってレイバン男を見た。
 それを受けて、レイバン男が口を開いた。
「希望部署は企画部と書いてあるけど、例えば営業の仕事とかやる気ある?」
 キター。
 その質問を待ってました。
「僕は、いえ、わたしはまだ世間のことがよくわかっていない若輩者です。音楽業界の仕組みさえぼんやりとしか理解できていません。ですから、最初から企画部で活躍することは無理だと思っています。今わたしに必要なことは色々な経験を積むことだと考えています」
 そこで息を整えて言葉を継いだ。
「音楽が大好きですし、いつかは自分が手掛けたミュージシャンを世に送り出したいと思っています。それがわたしの夢です。ですから、それができる部門、企画部での仕事を希望しています。しかし、会社から営業の仕事を与えられれば、全力でその仕事に取り組みます」
 するとレイバン男が大きく頷き、キチっと髪型男を見た。
「東京ではなくて、地方の営業でも大丈夫かな?」
「大丈夫です。全国どこへでも行きます」
 キチっと髪型男の目をしっかり見つめて言い切った。