1人……、
 若干名ではなく1人……、
 衝撃を受けた。
 同時に最高潮に達した緊張が体を金縛り状態にした。
 その上、最悪なことに下腹部の違和感が蘇ってきた。
 我慢するしかなかったが、少しして面接会場から出てきた早稲田の満足そうな顔を見た瞬間、膨満感が増した。
 ガスが今にも出てきそうでメチャヤバかったが、お尻の穴をギュッと締めて堪えた。

「それでは、青山さん、お入りください」
 女性社員に呼ばれて、大柄の彼が入室した。
 しかし、前の2人のような笑い声は聞こえてこなかった。
 
 20分後、部屋から出てくると、小金井に近寄って耳打ちをした。
「地方の営業でもいいかって聞かれたから、『私はディレクター志望です』って断った。お前も自信を持って面接しろよ」
 小金井が頷いて、小さな声で「サンキュー」と言って面接室に入っていった。
 その瞬間、我慢できなくなって立ち上がり、トイレに急いだ。
 下腹部の違和感が限界だった。
 しかし、またしてもガスが少ししか出なかった。

 時計を見た。
 まだ少し余裕があった。
 個室の中で面接時の受け答えについて思いを巡らせた。
「地方の営業でもいいか?」と聞かれた時の対応を考える必要があったからだ。
 今まで自分の中に営業という選択肢はなかったが、それを断った時のリスクを考えると、柔軟な対応をしなければならない。
 希望部署とは違っていても、相手の期待に応えることが重要だと言い聞かせた。
 今日は人生を決める面接なのだ。
 夢みたいなことを考えていてはいけない。

 よし! 
 思い切り気合を入れた。
 すると、溜まっていたガスが一気に出てお腹がすっきりした。
 大丈夫だ!
 自らに言い聞かせて待合室に戻った。