会社には早めに着いた。
 それには理由があった。
 受付でトイレの場所を聞き、小走りで向かった。
 毎朝必ず食後に便通があるのだが、今日はなんの音沙汰もなかった。
 だから、家で粘るのを止めて面接会場で頑張ることにしたのだ。
 下半身に違和感を抱えた状態で面接に臨みたくなかったので、時間ギリギリまで踏ん張った。
 しかし、便意は催さなかった。
 僅かばかりのガスが排出されただけだった。
 面接中に便意を催しませんように! 
 祈るような気持ちでトイレをあとにした。
 
 待合室には自分を入れて5人の学生が椅子に座っていた。
 面接順は5番目だった。
 緊張して座っていると、横の学生2人が親しげに話し始めた。
 聞き耳を立てていると、同じ大学のバンド仲間だということがわかった。
 自信があるのか、とても落ち着いた声で話していた。
 それに比べてこっちは更に緊張が増していた。
 心臓の音が聞こえてきそうだったし、口の中はカラカラに乾いていた。
 唇も同じだった。
 舌で舐めたが、僅かな湿り気しか与えられなかった。

 待合室のドアが開いて1人目が呼ばれた。
 名前は湯島だった。
 落ち着いた様子で部屋に入っていった。
 すると、それほど時間が経っていないのに、隣接する面接会場から笑い声が聞こえてきた。
 盛り上がっているようだ。
 更に緊張が増した。

 20分ほど経ってドアが開き、出てきた彼が丁寧にお辞儀をしてドアを閉めた。
 こちらの方には目もくれずに部屋から出ていった。