10日経っても連絡は来なかった。
 それでもまだ完全に諦めたわけではなかったが、ダメな時のことを考えて大学の就職課へ行った。
 留年するわけにも就職浪人するわけにもいかないので、今からでも応募できそうな会社を紹介してもらおうと思ったのだ。
 しかし甘かった。
 多くの企業では募集が終わっていた

 30代くらいの男性担当者が応対してくれたが、
「今頃になって頼まれてもどうしようもないだろ」
 と苦言を呈された。
「1社しか応募しなかったなんて信じられない」と呆れられた。
「甘えたことを考えるんじゃない、人生はそんなに甘くない」と叱られた。
 その通りだった。
 何も反論できなかった。
 うな垂れるしかなかった。
 しかし、落ち込んでいる姿を可哀そうに思ったのか、
「探しておくから明日の午後来るように」
 と手を差し伸べてくれた。
 でも、ホッとするという気持ちにはならなかった。
 深く頭を下げて就職課をあとにしたが、頭の中では答えのない堂々巡りが始まった。
 それはこれからの人生についての堂々巡りだった。
 例えどこかに就職できたとしても、それが希望する仕事でないことは確かだった。
 ただ生活のためだけに仕事をすることになるのだ。

 それでいいのだろうか? 

 最寄り駅で降りて自宅へ向かいながら問いかけたが答えはなかった。
 いいはずはないが、就職しないという選択肢もないのだ。
 しかしそれは自分の人生とは言えないのではないか。
 いや、そんなことを言っていたら生きていくことさえできないぞ。
 そうだとしても夢を捨てるべきではない。
 いや、夢で飯が食えるか? 
 それはそうだが……、

 希望の見えない人生を選択せざるを得ないという初めての経験に打ちのめされた。
 まだ22歳なのに……、
 嘆きがアスファルトに(こぼ)れ落ちた。
 それを通りかかった自転車が()いていった。
 その亡骸(なきがら)を風がさらって空へ舞い上げた。
 呆然と見送っていると、誰かの(あわ)れんだ声が耳に届いた。
「ご愁傷さま」
 それは耳に纏わりついていつまでも離れなかった。