「しかし、そのことは水に流してもいいと思っています」

 再度大事なことを思い出させるように、努めて冷静さを保って言葉を継いだ。

「先ほども申し上げましたが、今現在他社の出資は必要ありません。弊社単独出資でなんの問題もありません。十分にやっていけます。ですので、洋楽振興会からの出資はまったく必要としておりません」

 すると理事長の顔が歪むのがはっきりとわかった。

「この件をどうすべきか、社長の轟に報告し相談をしました。説明をじっと聞いていた轟は、わたしの判断に任せると言いました。但し、エレガントミュージック社の専務取締役としてではなく、業界人の立場で判断するようにと釘を刺されました。わたしはそれを重く受け止めました。その意に沿うために熟考しました。そして、出資比率についていくつかの案を考え、何度も検討しました。その結果、最終的に導き出したのが67:33だったのです。そしてこの案で轟の承認を得ました。なんの付帯要求も付けずに理事長が承諾していただければ、今月の取締役会に諮ることにしております。しかし、先程のように取締役の選任に関する付帯要求が付けば、この話はなかったことにせざるを得ません。いかがいたしましょうか」

 その途端、理事長はこれ以上はないというような渋面になった。
 口は真一文字に結ばれていた。

 もうこれ以上こちらが言うことはなかった。
 彼が口を開くを待つだけだった。
 だから、心は平静だった。
 YESなら握手をするが、NOならケツをまくればいいのだ。
 他に何も考えることはなかった。

 すると、こちらがこれ以上何も言わない気だと悟ったのか、理事長が口を開いた。
 しかし、その口から出てきた言葉はぞんざい(・・・・)という以外言いようのないものだった。