翌週、日本洋楽振興会の理事長と面会した。
 会社に呼びつけようかとも思ったが、大人げないことをしても仕方がないので振興会へ足を運んだ。

 エレガントミュージック社67パーセント、日本洋楽振興会33パーセントの出資比率を告げると、理事長は顔を曇らせた。

「せめて、50対50にしてもらえないかな」

「いえ、それでは取締役会を通すことはできません。あくまでも我が社が67パーセント持つのが条件です」

「そこをなんとか。業界全体の発展のために取締役会を説得してもらいたいんだが」

 何を言っているんだこの狐狸(こり)ジジイは!

 これ以上の話し合いは無駄だと思ったので、毅然とした声で最後通牒を告げた。

「この案を飲んでいただけないようでしたら、この話はなかったことにさせていただきます」

 席を立ちかけると、「まあそう言わないで」と理事長は慌てて立ち上がった。
 そして、動きを制するように両掌をこちらに向けた。
 そこまでされると仕方がないので腰を下ろさざるを得なかった。

「わかった。御社の案を呑むことにするよ。但し、取締役の三分の一をこちらから派遣することに同意してもらいたい」

 まだそんなことを言うのか!

 思いきりケツをまくりたくなった。
 しかしその時、轟の顔が浮かんだ。
 業界の発展を心底から願っている顔だった。
 そして、交渉決裂を望んでいない顔だった。
 それに逆らうことは出来なかった。
 大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けた。