「信じられますか?」

 その翌日、轟に向かって機嫌の悪い声をぶつけた。
 多分ふくれっ面になっていたと思う。

「そうカリカリしないで。須尚さんの気持ちもわかるけどね」

 弟を諭す姉のような口調だった。

「そう言われてもカリカリしますよ。話を持っていった時には、金が無いから無理だ無理だと言っていたのに、KIZUNAステーションが好調にスタートしたのを見た途端、掌を返したように出資したいだなんて、冗談じゃないですよ」

 轟は何も反応しなかった。
 こちらの気持ちが落ち着くのを待っている様子だった。
 それを感じたので、コーヒーカップに手をかけて、ブルーマウンテンをゆっくりと喉に流し込んだ。

「それで、どうしたいの?」

 機先を制された。
 どうすればいいか轟の意見を聞こうとしていたのだ。

「断りたいのが本音です。それもバッサリと」

 またムカついてきた。
 残りのコーヒーを今度は一気に飲み干した。

「業界人としては?」

 えっ、

 痛いところを突かれた。
 経営者としては? と訊かれたら本音と同じですと答えられたのに、業界人としては? と訊かれると、そうも言えない。

「何を言わせたいんですか?」

 攻められているだけでは面白くない。
 時々は攻め返さないと。

「何も」

 あっさりとかわされた。
 しかし、すぐに返事をするのもしゃくなので、時間稼ぎにコーヒーカップに手を伸ばした。
 しかし、空だった。
 忘れていた。
 すると、轟は口をつけていない自分のカップをこちらの方へ動かした。

「わかりました。出資を受け入れればいいんでしょう」

 今度も返事はなかった。
 続きを言うしかなかった。

「但し、67パーセントの議決権保持は譲れませんよ。彼らに勝手な真似はさせたくないですから」

 轟はにこやかな表情で頷いた。
 それでいいというサインだった。