最上極 

 桜が満開だった。
 大学の構内も近くを流れる川の両脇もソメイヨシノのピンクが空に映えて幸せな春の到来を告げていた。
 早咲きの寒緋桜や河津桜の濃い色を好む人も少なくないと思うが、ソメイヨシノの頼りなげな薄いピンクはなんとも儚げでいじらしく、思わず手を差し伸べたくなるような庇護してやりたくなるような、そんな気持ちを抱かせられる人も多いのではないかと思う。

 それはともかく、この季節が一番好きだ。
 厳しい冬を乗り越えて迎える暖かく穏やかな光と風に勝るものはないと思っている。
 しかし、4年生になった今、ウキウキとした気分はどこかへ飛んでいた。
 将来の進路を決める分岐点に立っているからだ。
 決められた道、家業を継ぐという道に進むことに迷いはないが、そのために決断しなければいけないこと、2つの選択肢のうちどちらを選ぶのか、ということに頭を悩ませているのだ。
 その上、どちらを選択しても必ず副作用が出るし、比較することさえできない。

 例えば、第1選択肢を選べば、短いとは言えない期間、別れを覚悟しなければならなくなる。それも最愛の人と。
 しかし、それが嫌で第2選択肢を選ぶと、世界最先端という専門性を犠牲にすることになる。
 難しい決断に迫られているのだ。

 そんな時、須尚から電話がかかってきた。
 飲みに行かないかという誘いだった。
 渡りに船だった。
 このまま悩んでいても埒が明かないので、相談しようと思っていたところだった。
 しかし、飲みながら話す内容ではないので、喫茶店で落ち合うことにした。