イイ線いっているとは思っていた。
 しかし、プロとして飯を食えるようになるかどうかは別問題だった。
 自分達より上手なバンドは山ほどいるのだ。
 しかし、レベルの高いバンドであっても、音楽活動の収入だけで生活できている奴はほとんどいない。
 みんなアルバイトをしながら、ギリギリの生活の中でバンドを続けていた。

 30歳になろうとするギタリストの話を聞いたことがある。

「音楽で飯を食える奴は一握りなんだよ。そんなに甘い世界じゃないぜ。演奏レベルが高ければ売れるというわけでもない。プラスαが必要なんだ。しかし、そのαがわからない。ルックスかも知れないし、そうでないかも知れない。単なるラッキーのような気もするし」

 バーボンを煽りながら暗い表情になった。

「俺は女に食わしてもらっている。ヒモだよ、ヒモ。情けねえよな、本当に。もうすぐ30なのにさ」

 嫌だ嫌だというふうに首を横に振って、またバーボンを煽った。
 その時の彼の苦渋に満ちた顔を忘れることはなかった。

「プロになるのは簡単かもしれませんが、飯を食えるようになるのは大変だと聞いています。慎重に考えないと」

 諭そうとしたが、彼らは取り合わなかった。

「挑戦だよ挑戦。今しかできない若さの特権だよ」

 両肩を掴んだベスに何度も揺すられた。

「ジジイみたいなこと言ってたら人生終わっちゃうぜ。そう思わないか、スナッチ」

 タッキーがスティックをクルンと回して先端をこちらに向けた。

「心配はわかるけど、一歩踏み出そうよ」

 キーボーが口説き落とそうとしていた。

 意識してうつむいた。そのまま顔を上げなかった。
 彼らの顔を見ると押し切られそうになると思ったからだ。
 だから、うつむいたままの状態で自らに言い聞かせた。
 人生を短絡的に考えてはいけない、後悔につながる早急な判断はしてはいけない、と。