「軽々に言えることではないので口籠ってしまいましたが、FM局開設はなんとしてもやるべきです。例え洋楽振興会の協力が得られなくても」

「どうやって?」

 轟の視線が戻ってきた。

「それは……」

 ソファに腰を下ろして右手を口に当てた。
 そして、責任を取る勇気があるかどうか自らに問うた。

 難しかった。
 心が揺れまくった。
 しかし、NOという言葉はどこからも湧き上がってこなかった。
 それだけでなく、職を賭してでもやらなければならないという心の声が突然聞こえてきた。
 その瞬間、覚悟が決まった。

「自分たちだけでもやるべきだと思います」

 覚悟を決めた声で訴えたが、轟は驚いた様子を見せなかった。
 表情を変えることなく次の言葉を待っているようだった。

「我が社の100パーセント出資でやらせて下さい」

 ぶれることなく言い切ると、部屋の空気がピンと張り詰めたような気がした。
 轟は微動だにせず視線を突き刺してきた。
 須尚も轟から目を離さなかった。
 瞬きもしなかった。
 一秒が数分にも思えるような時を過ごしたのち、轟の口が開いた。

「わかったわ。わたしたちだけでやれるかどうか、投資と回収のシミュレーションをして検討してみましょう」

「承知いたしました。直ぐに取り掛かります」

 一礼をして社長室を辞し、急ぎ足で経営企画室へ向かった。