「そう……」

 日本洋楽振興会の非協力的な態度について詰った須尚に対する轟の反応はただ一言だった。

「彼らに期待するのは無理です。彼らは、特に理事長は大局的な視点をまったく持っていません」

 怒りは爆発寸前になっていた。

「今の洋楽不況は業界の責任なんですよ。なのにまったくわかっていないばかりか、なんら手を打とうとしない態度に本当に頭に来ます」

 これ以上口を開くと、本当に爆発しそうだった。

 しかし轟は違っていた。

「で、どうしたらいいと思う?」

 沸騰寸前状態の須尚を冷ますような穏やかな口調だった。

「どうしたらって……」

 口ごもってしまった。代案がないではなかったが、それは自分でも無謀な考えのように思っていたからだ。

「何も考えていないわけないわよね。遠慮なく言ってみて」

 心の中を見透かすような目で見つめられた。

「ないわけではないですが……」

 専務取締役としての立場が口を堅くしていた。
 経営の一翼を担う者として軽々に口に出せることではなかった。

「須尚さんらしくないわね。言ってくれないと何もわからないわ」

 轟の笑みが口を割らそうとしていたが、幾重にも重なった躊躇いをすべて取り除くことはできなかった。

「言うのは簡単ですが……」

 煮え切らない態度に呆れたのか、轟が視線を外した。

「たいした案を持っていないということね。それなら仕方がないわ。洋楽振興会の協力が得られない上に代案もないということなら、FM局開設の話を白紙に戻すしかないわね」

 淡々とした口調で決断を下したので、
「ちょっと待ってください」
 と思わずテーブルに両手をついて腰を浮かした。