最上極 
 
「60代男性の平均的な聴力レベルだとお考え下さい」

 日本人研究員が聴力のグラフを示して説明をした。

「ありがとうございます。なんと御礼を言ったらいいか。本当に夢のようで……」

 言葉に詰まった木暮戸が頭を下げると、最上は手を立てて横に振った。

「お礼を言うのはこちらの方です。木暮戸さんのご協力に心から感謝しています」

 2年に渡るNMEの第一相臨床試験が終わり、木暮戸の有毛細胞に再生毛が確認された。
 聴力が回復したのだ。
 最上にとってこんなに嬉しいことはなかった。
 ニタス博士の顔にも喜びが溢れていた。