観客は一瞬なんのことかわからない様子だったが、すぐにハッと気づいたようで、大歓声がステージに返ってきた。
 そのボルテージにスイッチを押されるようにステージ全体が明るく照らし出された。
 そこには、ビートローリングスとクイーン・クリムゾン全員の姿があった。

 しかし歓声は起こらず、沈黙が支配した。
 観客は目の前の出来事を理解できないようだった。
 大きく目を開けて固まっている人がいた。
 口が開きっぱなしの人がいた。
 両手で口を押えている人がいた。
 ウソでしょ、というふうに隣の人と目を合わせている人がいた。
 あり得ないことが目の前で起ころうとしているのだ。
 まさかのことが起ころうとしているのだ。
 誰だって頬を抓りたくなるのは当然と言えば当然だった。

 そんな中、2人のドラマーがアイコンタクトをし、スティックでカウントを数え始めた。

 ジャ~ン♪ という音と共にビートローリングスとクイーン・クリムゾンが一体となった演奏が始まった。

 その瞬間、沈黙が大歓声に変わった。
 ウォ~~という地鳴りのような歓声だった。
 それを待っていたかのように2人のリードヴォーカルが歌い出した。

 ウ~、ワ~! 

 地響きを伴った歓声がステージだけでなく波動となってステージの袖にも押し寄せてきた。
 会場の様子を見つめていた須尚は震えが止まらなくなった。
 顔の穴という穴から感動の雫が滴り落ちた。
 もう何が何だかわからなくなった。
 気づくと、自分でも信じられないほどの叫び声を上げていた。

 奇跡だ~! 
 キーボーが奇跡を起こした~!