「人間が捨てたプラスチックごみは小さく分解され、マイクロプラスチックとなり、海を回遊しています。その数は膨大で、推測不可能な規模になっています。そして、それを食べた魚や海獣が命を落とすだけでなく、人間の体を蝕もうとしています。マイクロプラスチックを食べた魚や海獣を人間が食べ、体内にマイクロプラスチックを取り込んでいるのです。今後どのような影響がでてくるのか、大きな懸念が示されています。そこで、わたしたちはプラスチックごみを出さない活動をするだけでなく、海岸に打ち上げられたプラスチックごみを回収する活動をしているのです」

 その活動記録を指し示しながら、博士は言葉を継いだ。

「須尚さんのご友人を誘っていただけないでしょうか。海岸線を歩きながら、プラスチックごみを拾っていただけないでしょうか」

 しかし、言っていることがよくわからなかった。
 提案の意味がよく飲み込めなかった。
 難聴とプラスチックごみ拾いとの関係がよくわからなかった。
 だから首を傾げざるを得なかったが、彼はニッコリと笑って優しく問いかけた。

「海岸に寄せては返す波の音を聞きながらプラスチックごみの回収をする作業は耳と心に優しいはずです。自然と交わること、そして世の中の役に立つ活動をするということは大きな満足感を得ることになります。それは、耳を休め心を休めることに繋がるのです。録音スタジオという狭い世界から解き放たれて海という大自然に包まれた生活をすることの意味は大きいと思います。いかがですか?」

 思いやりに満ちた目でじっと見つめられた。