翌月の取締役会で承認され、株主総会を経て、正式に取締役に就任した。
 そして、企画部を担当することになった。

 轟は代表取締役副社長に就任した。
 それと同時に、古参の役員たちが退任した。
 将来の轟体制への布石が打たれたのだ。
 それは、激動する時代を生き抜くための布石でもあった。

 2010年のCD売上は5年前の6割の水準に落ち込んでいた。
 音楽DVDとネット配信は伸びていたが、CDの落ち込みを補うには力不足だった。

「人口減少が加速する国内市場にとどまっていては遠からず死の宣告を受けるようになるわ」

 新聞に掲載された〈総人口の長期的推移〉のグラフを見ながら、轟は大きなため息をついた。

 日本の人口は2004年の1億2,700万人強をピークに、2050年には9,500万人まで減少する可能性が示されていた。
 そして、2100年には5,000万人を割り込むという信じられない予測も付加されていた。

「終戦の時でも7,000万人いたのに……。政府は何をやっているのかしら」

 新聞は歴代内閣の無策を厳しく指摘していた。
 人口減少が国力減退につながることを何もわかっていないと。
 表向きの対策ばかりで実質を伴った出生数増加策が打てていないと。

 遅まきながら、2007年に内閣府特命担当大臣として少子化対策担当というポストが設けられたが、毎年コロコロと大臣が変わり、ただ引継ぎが繰り返されているだけの状態が続いていた。
 民は呆れるばかりだった。

「悲しいけど、日本の将来を真剣に考えている政治家や役人はほとんどいないのよ。女性が子供を産み育てることの大変さを本当にわかっている人がいないの。男性主導型社会の限界ね。女性が主導する新しい時代が来ない限り、日本は滅亡するかもしれないわ」

 轟は、息と共に体の中から苛立ちを押し出すようにして、未来へ目を向けた。

「国を当てにはできない。国がなんとかしてくれると思ってはいけない。わたしたちは自らの力で生き残っていくしかないわ。人口減少で日本市場が縮小していくのだから、日本にとどまっているわけにはいかないのよ。社長が言う通りREIZの世界進出成功無くして我が社の将来はないと思うの。だからなんとしてでも成功させなければならないの」

 強い決意を目に漲らせていた。

「準備を進めています。幸い、令はアメリカ育ちで英語は完全にネイティヴです。麗華も大学ではすべての授業を英語で受けていただけあって、英語で作詞することになんの違和感もないようです。というより、英語の方がメロディーを乗せやすいとも言っています」

 伝え終わるや否や、轟は顔を綻ばせた。

「頼もしいわ。須尚さん、よろしく頼むわね」