須尚正 
 
 REIZのセカンドアルバムはデビューアルバムを超える大ヒットになった。
 200万枚を超えたのだ。
 その上、全国6か所のドーム球場ライヴが発売即ソールドアウトになり、音楽誌や芸能誌だけでなく、スポーツ紙や一般紙、そして、各種雑誌でも大きく取り上げられた。
 一種の社会現象となっていた。
 そういう状況だから、関係者だけでなくすべての社員のテンションが上がっていた。
 今まで経験したことがないような興奮状態が社内を包み込んでいた。

 そんな時、突然社長に呼ばれた。
 内示だった。

「君を役員に推薦しようと思う。受けてくれるかな」

 にこやかな表情で見つめられた。

「役員……」

 思いがけない言葉に、喜びよりも戸惑いが勝った。

「君がイヤと言っても推薦するがね」

 大きな声で肩を揺するようにして笑った。

「ところで、REIZのことだが」

 悪戯小僧のような表情から社長の顔に戻った。

「サードアルバムは全曲英語でやってもらいたい」

 えっ? 
 全曲英語?

 突然のことに慌ててしまったが、話はそれで終わらなかった。

「アメリカで勝負させたい。そして、世界へ羽ばたかせたい。これは社運を賭けての挑戦になる。よろしく頼む」

 社長の右手が伸びてきて、分厚い手で右手をがっしりと掴まれた。
 しかし、話が急展開し過ぎてすぐに声を発することができなかった。
 役員というだけでも強烈なのに、世界という言葉、更に、社運という言葉に度肝を抜かれていた。
 それでもなんとか「承知いたしました」という言葉を絞り出したが、その意味の重さに押しつぶされそうになった。