「チンパンジーでの投与実験中に、なんとしても作用機序を解明しなければなりません」

 ニタスは、NMEが毛を再生させる機序と、その再生毛が成長しない機序の解明ができなければ、人への投与はできないと強調した。

 当然だった。
 すぐさまこれにも同意した。
 このハードルはなんとしてでも越えなければならない。
 どんなに高いハードルであっても越えなければならないのだ。

 大きな課題が残されていたが、アメリカ製薬と最上製薬は両社合意の上、合弁研究所の共同研究期間を10年に延長すると共に、チンパンジーへの投与実験を始めることを決定した。
 有毛細胞の毛が抜け落ちた難聴モデルのチンパンジーへの経口投与実験だ。
 今回も用量別に3群に振り分けた。

 最上は高用量投与中のメスのチンパンジーには「エミ」、
 オスのチンパンジーには「スナッチ」と名づけて、
 アメリカにいる時は毎日彼らに声をかけ続けた。