5月5日の夕方、合弁研究所の仲間が誕生日を祝ってくれた。
 大きなバースデーケーキに『55』とクリームで描かれていた。
 ケーキに立てられたロウソクが5本だったので一気に吹き消すことができたが、動物実験の火も消えてしまうのではないかという思いが過って、嬉しさも半分ほどになってしまった。

 気になったので、仲間と別れたあと研究所の動物実験室に立ち寄った。
 入室前に手指消毒をし、ディスポの滅菌ガウンに着替え、マスクとキャップを着けた。
 入室専用の靴にはシューカバーをつけ、最後にディスポの手袋をはめた。
 そして、実験室に入った。

 エミは眠っているようだったが、気配を感じたのか、ゆっくりと動き出した。

「エミ、55歳になったよ」

 つぶらな瞳を見つめながら声をかけると、動きを止めて、こちらの方に顔を向けた。
 それを見て嬉しくなった。

「エミも喜んでくれるの、俺の誕生日を」

 すると、また動きを止めて、こちらへ近づいてきた。

「エミちゃん」

 最上も檻に近づいた。
 見つめていると、口づけがしたくなった。
 もちろんしなかったが、その代わりにつぶらな瞳をじっと見つめた。

「エミちゃん」

 声をかけると、目が合った。
 こちらをじっと見つめる目は、何かを訴えているようだった。

 もしかして……、

 突然、心拍数が上がって、感情が高ぶった。
 血圧が異常レベルにまで上がっているのではないかと思えた。
 大きく唾を飲み込んでエミを凝視した。
 エミもこちらをじっと見ていた。
 突然大きな声で彼女に呼び掛けたい衝動にかられた。
 しかし、冷静になれという心の声が聞こえたような気がしたので、それに従って檻から離れた。