最上極 
 
「エミ」
「スナッチ」

 いつものように高用量を投与中のマウスとラットに声をかけた。
 マウスには「エミ」、ラットには「スナッチ」と名づけて毎日名前を呼びかけるのがアメリカに居る時の日課になっていた。

 あとから合成した3つの誘導体による試験はすべて失敗に終わったが、最初の誘導体を投与する試験は続いていた。
 しかし、2年以上経つのになんの変化も起らなかった。
 それは残念なことだったが、このマウスとラットには家族同様の親近感を抱いていた。
 自分が仮説を立てた誘導体の試験に参加してくれている同志だからだ。

「あと1年、長くても2年ですね」

 何気なく言ったであろう日本人研究員の言葉に胸が締め付けられるようになった。
 マウスやラットの寿命は長寿のものでも3年ほどと言われているので、別れの時が刻々と迫っているのだ。
 覚悟はしているが、その時が来たら耐えられるかどうか自信がなかった。