須尚正 
 
「また、よろしく頼む」

 差し出した手を握ったキーボーは無言で頷いた。
 REIZのセカンドアルバムの録音が始まったのだ。
 前回と違い、今度はゆっくりとしたスケジュールで進めた。
 時間に余裕があることに加えて、キーボーの耳の状態が心配だったからだ。
 彼に無理はさせられない。
 それに、緊張が高まると彼のアルコール依存度も高まるので、その面でも気を配らなければならなかった。
 だから深夜の録音を禁止した。
 併せて大音量によるミキシングも禁止した。
 キーボーは不満そうだったが、頑として彼の体調優先を貫いた。
          
 全10曲中5曲の録音が終了した日の翌日を休養日に当てた。
 キーボーの耳と神経に与える負担を減らすためだ。
 それに、タッキーとベスの体調も心配だった。
 親子ほど年齢が違う若い2人と同じペースで仕事をさせるわけにはいかない。
 慎重には慎重を期さなければならない。