REIZのデビューアルバムは瞬く間にヒットチャートの1位に駆けあがり、新人バンドとしては異例の100万枚越えというビッグ・ヒットとなった。
 麗華のルックスとスタイル、スマイルとミルキーヴォイス、そして、長身長髪で彫りが深くクールな令の歌と演奏とアクションは、一気に日本全国の若者を虜にした。
 加えて、タッキーとベスのリズムセクションが支えるサウンドへの評価も高く、ファン層は60代にまで広がっていた。
 
 須尚は超がつくほどの忙しさの中にいた。
 それは関係者の誰もが同じだった。
 時間がいくらあっても足りない状態で、猫の手を借りたいと真剣に思うほどだった。

 そんなさ中、轟に呼び出された。
 なんだろうと思って役員応接室に行くと、笑顔の轟が待っていた。

「社長賞に決まったわ。REIZが我が社の救世主になったって、社長が大喜びなの」

「社長賞って……」

「ええ、前例がないらしいんだけど、今回は特例として決まったの。だから、我が社初の栄誉ってことになるわね」

 狐につままれたような感じになった。

 その表情が可笑しかったのか、轟がくすっと笑った。
 そして、「社長賞はなんだと思う?」と悪戯っぽく笑った。

 何も思い浮かばなかったので、取り敢えず「金一封」と答えた。
 すると、轟はにこやかな表情になって首を横に振った。

「セカンドアルバムのレコーディングを兼ねて、2か月間アメリカに行って来いって」

 えっ、2か月?

「REIZを大事に育てたいから、嵐のようなマスコミ攻勢から守りたいって。それにね、世界で通用するバンドに育てたいんだって」

 世界……、

 その言葉を聞いて、とても嬉しく感じた反面、寂しさが込み上げてきた。
 それは、麗華が自分の元から離れていくことを意味していたからだ。
 それも遠い所へ行ってしまうことになる。
 娘であって、娘ではなくなる。
 麗華が世界のアイドルになったら手の届かないところに行ってしまうのは間違いないのだ。
 形容しがたい淋しさと焦りが突然体の中で渦巻き始めた。

 固まっていると、轟の穏やかな声が届いた。

「わかるわ。企画部長としては嬉しいけど、親としては複雑よね。人気が出れば出るほど自分の元から離れていくのだから。でもね、麗華ちゃんは大丈夫。彼女は人気に浮かれて親のことを忘れてしまうような子じゃないわ。人気が出れば出るほど冷静になれる子よ。だから、自分にとって大事な存在である両親を疎かにすることは無いわ。信じてあげて」