発表が終わると音野と最上はすぐに演者控室に急いだ。
 資料をブリーフケースに仕舞っている彼女を見つけると、音野は名刺を差し出して自己紹介をした。
 そして、彼女の研究に対して称賛の言葉を送った。
 すると彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに悔しそうな表情に変わって、唇を噛んだ。

「新しい発見をしても日本の学界はなかなか認めてくれないのです。そのくせ外国で評価されると掌を返したように追認する日本の学界って、なんなんでしょう」

 それは、日本人の一流研究者であれば誰もが抱く疑問だった。
 日本人の優れた研究を真っ先に評価するのはいつも外国なのだ。
 それを見て、鼻にもかけなかった日本の学会の重鎮が、なんらかの理由をつけて追認するのだ。
 自分の見る目の無さを覆い隠すように。

「日本では超一流の研究者は育たないと思います」

 彼女は憤慨の中に愁いを帯びたような目で訴えた。

 残念ながら、同感だった。
 音野も同じだろう。
 超一流の研究者はアメリカへどんどん流出していた。
 新しい発想を理解しない日本に見切りをつけ、誰もやらないことこそ評価するアメリカに希望を託すしかなかったのだ。
 更に、研究に対する評価や待遇だけでなく、優れた研究環境も日本人研究者の流出原因となっていた。
 アメリカとは余りにも違いすぎる日本の環境は劣悪と言っても過言ではなかった。