「素面じゃやってられない」

 またグラスにバーボンを注いだ。

 確かに、コントロールルームでのキーボーには鬼気迫るものがあり、近寄り難いほどだった。
 神経の使い方は尋常ではなく、擦り切れるほどの使いようだった。
 更に、その緊張は仕事が終わったあとも途切れることがないようだった。
 覚醒した神経が治まることはないのだろう。
 寝る前にスマホを見続けると視神経が覚醒されて眠れなくなるように、極限まで集中して覚醒した神経は、仕事が終わってもギンギンに彼を刺激し続けているようだった。 
「覚醒しすぎて嬌声(きょうせい)を上げたくなるくらいだ」
 
 彼はまたバーボンを呷った。
 その辛そうな顔を見ると、もう何も言えなくなった。

「眠たくなるまで飲み続けるんだ。飲み続けて、ただひたすら飲み続けて、神経が『おやすみなさい』と言ってくれるまで飲み続けるんだ」

 頷くしかなかった。

「キーボーの神経がおとなしくなりますように。そして」

 グラスを掲げて、彼のグラスに合わせた。

「そして、なんだ?」

 キーボーが訝しげな表情を浮かべたが、首を横に振ってもう一つの心配を飲み込んだ。