3日後、「ギターを持って家に来て欲しい」と彼から電話があった。
 急いで行くと、お母さんが出迎えてくれて地下室まで案内してくれた。
 彼はヘッドフォンをしたまま何かの作業に夢中になっていた。
 その作業が終わるまで黙ってじっと待った。
 
 彼が顔を上げた。
 ヘッドフォンを外して手を上げたあと、オープンリールを回し始めた。
 すると聞き覚えのある曲が流れてきた。
 しかもちゃんとした合奏になっていた。
 彼は多重録音をしていたのだ。
 ピアノをバックに歌ったあと、シンセサイザーでベース音を被せ、それに、リズムボックスの音を入れ込んでいた。

「少しだけメロディーと歌詞をいじったけどカンベンな」

 頷くと、「4トラックだから、もう一つ音を入れられるんだ」と言って、アンプの前にマイクを置いた。

 ギターをアンプに繋いで、スピーカーから流れてくる演奏に合わせて弾けと言う。
 また頷いて、ギター・ソロと歌のバッキングを重ねると、一発でOKがでた。

「さあ、どれどれ」

 彼はヘッドフォンを耳に当てて、録音レベルの調整を始めた。


「よし!」
 再生ボタンを押した。
 ギターのイントロに続いて歌が聞こえてきた。

「いいね!」

 彼が親指を立てた。

 その完成度に驚いた。
 歌と楽器のバランスが最高なのだ。
 まるでプロのレコードのように聞こえた。

 キーボーは凄い! 

 思わず指を立て返した。

「明日、タッキーとベスに聞かせよう」

 彼はオープンリールからカセットテープにダビングを始めた。