翌日また電話があった。
 音野はアメリカに来ていた。
 それも、ワシントンD.C.のホテルにいるという。
 気分は落ち込んだままだったし、体も重かったが、せっかく音野がこちらに来ているのに会わないわけにもいかず、重い足を引きずるようにして彼が滞在するホテルへ向かった。

 ロビーで落ち合った。
 自分と違って元気いっぱいのように見えた。
 骨伝導補聴器の開発が順調に進んでいるようだった。

「何かあったのですか?」

 問われるまま最上は難聴治療薬の厳しい開発状況を伝えた。

「そうですか……」

 音野は残念そうに首を横に振った。

「そうですか……」

 自分事のように顔を曇らせて深く息を吐いた。

 そこで会話が途切れた。
 しかし、救いの手を差し出すかのように音野のお腹が鳴った。
 腕時計の針は12時45分を指していた。

「メシ、行きますか」

 誘うと、音野は頷いて立ち上がった。