「最上さん、聞こえていますか?」

 音野の声が遠くから聞こえているように感じた。

「あっ、はい。聞こえています」

「大丈夫ですか? 何かあったのですか?」

「いや、大丈夫です。なんでもありません」

「それならいいのですが……、かけ直しましょうか?」

「はい。いや、はい……」

 頭の中は靄がかかったような状態で、シナプスが繋がる気配はまったくなかった。

「最上さん」

 さっきよりも遠くの方で声が聞こえたような気がした。
 最上はスマホを持ったまま無言で頷いた。
 もう一度音野から呼びかけがあったが、同じように無言で頷いた。
 自分では返事をしているつもりだった。

「また明日かけ直します」

 電話が切れたが、その声と音は脳に届いていなかった。

「もしもし……」

 聞いている相手のいないスマホに向かって最上は問いかけ続けた。