「しかし」

 ニタスの声だった。
 話はまだ終わってはいなかった。
 呼応するように最上が顔を上げた。

「更なる誘導体の開発に成功しました」

 ニタスのチームが寝食を忘れて取り組んだ新たな誘導体、それも3種類の誘導体の開発に成功したというのだ。

「今日から経口投与の実験を始めます」

 3種類の誘導体それぞれに対して、低用量、中用量、高用量別に安全性と有効性を確認するという。

「最初の誘導体の進捗を見守りながら、並行して新誘導体の実験を進めていきます。つまり、4つの誘導体の12の動物実験が進行していくのです」

 そこで言葉を切った。
 そして、全員に向けて強い意志を放った。

「今は厳しい結果が続いていますが、我々が挑戦しているのは未知の領域なのです。誰も踏み込んだことのない未知の領域なのです。そんなに簡単にうまくいくはずがありません。だから、一喜一憂せず、自分たちを信じて、そして、なんとしてでも難聴患者のQOLを向上させるのだという信念を貫いて、未開の地を切り開いていきましょう」