1週間後、何気なくラジオを聞いている時だった、その曲に出会ったのは。
『氷の世界』
 井上陽水の曲だった。
 衝撃を受けた。
 パンチの効いた歌声に痺れた。
『傘がない』や『夢の中へ』は知っていたが、それとはまったく違う迫力に圧倒された。
「この曲が収録されたアルバムは日本初のミリオンセラーを記録しています」
 とディスクジョッキーが紹介していたが、そのことが大納得できる歌だった。

 これだ! と思うと居ても立ってもいられず、レコードショップへ急いだ。
 そして、アルバムを買って、キーボーの家へ向かった。
 
「哀愁のあるマイナーのフォークロックってどうでしょうか」

「う~ん、どうかな……」

 キーボーは大きなスピーカーから流れる『氷の世界』を聴きながら考えているようだったが、曲が終わった時、「スナッチがやりたいと思ったら、それをやればいいんじゃないの」と控えめではあったが背中を押してくれた。
 
 家に帰って、すぐに作曲に取り掛かった。
 ギターで色々なコードを押さえながら鼻歌でメロディーを探した。
 そして、気に入ったメロディーが浮かぶとラジカセに吹き込んだ。
 それを何回か繰り返して、特に気に入ったメロディーを繋ぎ合わせた。
 すると、なんとか形になってきた。
 それを更にブラッシュアップさせて哀愁のあるマイナーのフォークロックへと仕上げていった。

 メロディーが固まると、あとから歌詞をつけた。
 失恋を機にまったく別の人間に変わっていく男の(さま)を描いた。
 結構いい詩が書けたと思ったので、すぐにラジカセに吹き込んで聴き直した。
 悪くなかった。
 初めてとしては上々だと思った。

 よし、これでOK。
 悦に()ってカセットを取り出し、ラベルに曲名を書き込んだ。