須尚正 
 
 正式に契約を済ませた翌月、麗華と礼を会社に呼んだ。
 デビューに向けての重要な話をするためだ。
 内容を伝えていないせいもあるのか、麗華と礼は神妙な表情でこちらを見つめていた。

「まあ、そんなに緊張しないで」

 気持ちを解そうと笑みを投げたが、効果はなさそうだった。
 仕方がないので、すぐに本題に入ることにした。

「ちょっと待っててくれ」

 立ち上がって応接室を出て、隣室に待たせている人を呼びに行った。
 そして、男性2人を連れて応接室に戻り、自分の横に座らせた。

「ツアーメンバーを紹介する」

 ドラマーとベーシストだと告げた。
 その瞬間、2人は、えっ? というように目を見開いた。
 それは無理もなかった。
 ドラマーとベーシストは父親と同年代なのだ。

 こんな年寄りとバンドを組むの? 

 麗華の顔にそう書いてあった。

 無理だよ! 

 令の顔には憂いが浮かんでいた。

 そういう反応が返ってくるのはわかっていたが、余りにも予想通りだったので笑ってしまった。
 しかし、しっかり伝えて安心させる必要があるので緩んだ顔を引き締めた。