降りると目の前に『難聴解消機器開発()』と白い文字で書かれたドアが見えた。

 インターホンを押すと、女性の声が返ってきた。
 会社名と名前を告げ、アポイントなしの訪問であることも告げた。
 すると女性は困惑したような声で「少々お待ちください」と言って、インターホンを切った。
 しばらくして、男性の声が聞こえた。

「アポイントなしの面会はお受けしておりませんので、申し訳ありませんが、お引き取り願います」

 インターホンが切れた。
 当然の反応だったが、諦めるわけにはいかなかった。
 背広の内ポケットからスマホを取り出してアイコンを押した。

 すぐに繋がった。
 聞き覚えのある声だった。
 先ほどの男性に違いなかった。
 会社名と名前と用件を告げると、呆れたように笑い出した。

 電話が切れると、間を置かずドアが開いた。
 出迎えてくれたのは若い男性だった。

「ドアの前でアポイントの電話をかけてきた人は初めてです」