最上極 
 
「なんの変化もありません」

 アメリカ製薬の研究員の報告に、部屋に集まった全員が肩を落とした。
 発毛剤の誘導体を投与したマウスとラットの有毛細胞の毛は、3か月経ってもまったく再生される気配が見えなかった。
 産毛の一本も生えていないのだ。
 期待が大きかっただけに受けたショックも大きく、思わず顔を伏せてしまったが、それでも強張った顔を無理矢理緩めて前を向いた。
 社長という立場上いつまでも萎れているわけにはいかなかった。
 すると、
「そんなに簡単に再生を期待してはいけません。経口投与で、しかも、まだ3か月しか観察していないのです。成果を急いではいけません。半年後を、1年後を待ちましょう」
 とニタス博士に優しく励まされた。
 それは嬉しかったが、合弁期間が3年と決められている状況で、成果を急ぎたい焦りにも似た気持ちを消すことはできなかった。
 まだ臨床試験に入っていないのだ。
 前臨床の段階で時間を浪費するわけにはいかないのだ。
 焦る気持ちを抑えながら足早に実験室へ行き、祈るような気持ちでマウスとラットの耳を凝視した。