須尚正 
 
 エレガントミュージック社の役員応接室に入った2人は、サイドテーブルに置かれたセンスの良いフラワー・アレンジメントに目を奪われたようだった。
 それは、普通よく見かける胡蝶蘭の鉢ではなく、エッフェル塔を模した造形物の下部にある花瓶に紫色系のバラがいくつも浮かべられていた。

 2人がうっとりとしたような表情でバラのアレンジメントに見惚れていると、ノックの音がして、待ち望んだ人が入ってきた。

「お待たせしました」

 品の良いベージュのパンツスーツに純白のインナーを合わせた女性の右腕には、シンプルなワイヤー・ブレスレットが飾られ、ゴールドな輝きを添えていた。

 2人は同時に立ち上がって、同時に声を出した。

「よろしくお願い致します」

 麗華と礼だった。

「こちらこそよろしくね」

 答えたのは、轟響子だった。

「聴かせてもらったわ」

 企画部担当取締役に昇進した轟は、麗華が送ったデモCDを手にしていた。

「須尚さんと木暮戸さんの子供がバンドを組むなんて……」

 感慨深げに麗華と礼を見つめたあと、こちらに視線を向けた。
 そして、「驚いたでしょう」と言った。

「飛び上がるくらいに」

 おどけてみせると、そうでしょうね、というように口元が綻んだ。
 しかし、麗華の焦れたような声がそれを遮った。

「あの~、わたしたちの曲は……」

 令も同じような目で轟を見つめていた。

 轟は手に持ったCDに視線を落とした。