最上極 
 
 骨伝導……、

 最上は最先端の医学と医療機器研究を紹介する専門誌の『先端技術最前線』という特集ページから目が離せなくなっていた。

「骨伝導を用いた小型医療機器は難聴患者のQOLに貢献します」

 自信満々で笑っている顔がアップになった写真は、まだ20代とも見える日本人男性だった。

 音野(おとの)良伝(りょうでん)
 東京先端医療大学の准教授であり、難聴解消機器開発の社長と紹介されていた。

 聞いたことのない会社名だった。
 しかし、東京先端医療大学は、日本で、いや、世界でもトップクラスの研究実績を誇る大学であることは、最上もよく知っていた。

「わたしが取得した特許を基に今年スピンオフして会社を設立しました。まだ10名弱の組織ですが、世界の難聴患者を救う救世主企業にしてみせます」

 最終ページで力強く言い切った顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
 
 骨伝導の補聴器は外耳や中耳に障害のある患者に有効であるらしい。
 それは、鼓膜を通さずに振動によって骨から音を伝え、直接内耳の蝸牛(かぎゅう)に届く仕組みであると紹介されていた。
 聴力を失ったベートーベンがこの方法でピアノの音を聞いていたらしいというエピソードも紹介されていた。

 骨伝導か……、

 有毛細胞の毛を完全に失った患者には効果がないかもしれないが、それ以外の難聴患者に福音をもたらすことは容易に想像できた。
 それに、この骨伝導補聴器と発毛剤誘導体を併用したら多くの難聴患者を救えるかもしれない。
 それも遠くない将来に。
 そう思うと心が沸き立って、すぐに彼の会社のホームページをスマホに登録した。
 すると難聴解消機器開発という社名が光ったように感じた。
 それは、最上にとって希望の光のように思えた。