そんな重苦しい雰囲気が漂う中、救世主が現れた。
「ちょっと早いけど、夕食にしませんか?」
 という妻の明るい声だった。
 それでホッとして彼をダイニングの方へ誘ったが、彼は席を立とうとしなかった。
 遠慮しているのが表情に現れていた。

「若い人が遠慮するもんじゃないよ」

 なっ、という視線を麗華に投げると、麗華の表情が柔らかくなって、こくんと頷いた。
 それを見た彼が渋々という感じだったが立ち上がった。
 すかさず彼の腕を取ってダイニングテーブルの椅子に誘導した。

「一杯どう?」

 注ごうとしたビールを彼は手で制した。

「ありがとうございます。でも、酒は飲まないことに決めていますので」

 両親の離婚の原因は生活のすれ違いだけではなく父親の飲酒にもあったと、辛そうに口を開いた。