「それが原因で、長期に渡って両親の生活がすれ違ったことが原因で離婚することになったと母から聞きました」

「そうか、そうだったんだ……」

 これまで音楽業界で活動する人間の悲しい行く末をいくつも見てきた。
 それは、華やかな外面とは違う厳しい現実だった。
 一流になればなるほど、人気が出れば出るほど、プライベートとのバランスが難しくなるのだ。

 キーボーの苦悩は、そして奥さんの虚しさはどのくらい深かったのだろうか? 

 それを考えると深海に引きずり込まれるような感覚に陥った。

 口論が続いたのだろうか、それとも、(ののし)り合いになったのだろうか、それとも、キーボーが手を出すようなことがあったのだろうか、それに対して奥さんも反撃したのだろうか、それとも氷のような冷たい表情で互いを無視するように暮らしたのだろうか、

 そんなことを想像すると居たたまれなくなった。
 だから話題を変えようと思ったが、彼の近況が知りたいという欲望に勝つことはできなかった。

「お父さんとはもう会っていないの?」

「いえ、年に2回、夏休みと冬休みに僕がアメリカに行ってオヤジの家に泊まっています。何度誘っても母は行きませんが」

 また彼の顔が曇った。

 その表情を見て、部屋の空気がどんよりと沈んだように感じた。
 だからそれを打開できる話題を探したが、何も思いつかなかった。
 それは麗華も同じようで、視線を彼に向けてはいたが口を開くことはなかった。