「あの時諦めなければよかったって、あとになって後悔したくないの」

 再び口を開いた麗華はきっぱりとした口調で続けた。

「人生は一度きり。今この瞬間も一度だけ。だから、今やりたいことに集中したいの」

 真っすぐに見つめられた。

「お父さんの気持ちはとても嬉しい。心配してくれて有難いと思っています。でも、大丈夫。わたし一人でデビューするわけではないから。頼りになる仲間と一緒だから」

 今まで一度も麗華のステージを見たことがなかったが、ライヴの録音は聴いたことがあった。
 スマホ内蔵のマイクで録音してCDにダビングしたものなので音質は良くなかったが、歌も演奏も中々のレベルだと思った。
 アマチュアのレベルは確実に超えているし、このバンドならやれるかもしれないと思ったのも確かだった。

「バンドのメンバー全員の意志なのか? 本当に全員の気持ちが一致しているのか? なんとしてでもプロになりたいという強い決意を持っているのか?」

 ビフォー&アフターのことがあったので、敢えて厳しい口調で迫ったが、意外な返事が返ってきた。

「バンドと言っても2人だから……」

「2人? でも、ドラムとベースとキーボードとピアノとギターの音が……」

「打ち込みなの。ドラムもベースもキーボードも全部打ち込みなの」

 打ち込み……、

「実際に演奏しているのは、わたしとギターの男性の2人だけなの」

 デュオ、それも男と……、

 異性とのデュオでデビューしたいと言われて、頭の中は混乱した。

 それはちょっと、いくらなんでも……、

 困惑していると、
「今度家に連れてくるから会ってみて」
 と麗華が両手を合わせた。