「出資に関しては、社長とはいえわたしの一存では決められません。本社の取締役会での決定が必要です。ですので、持ち帰って検討させていただくことになります」

「結構です。十分に検討して下さい。但し、もう一つ条件があります。共同研究の期間です。その期間は3年間と考えています。その間になんらかの研究成果が出なければこの共同研究は終了させていただきます。その点も併せてご検討ください」

「承知しました」

 最上は笑みを浮かべたが、心の中では別の言葉を発していた。

 3年か~、

 それは、長いようで短かった。
 今回の誘導体の可能性にかけてはいるが、それが有毛細胞に働いて毛の再生を促すことをこれから証明しなければいけないのだ。
 その作用が即効性で、かつ、安全性に問題がなければ短期間で臨床試験に移行できるが、そうでなければかなりの期間を動物実験に費やすことになる。
 それに、もし証明できなければ別の誘導体を合成して試さなければならなくなる。
 そうなると3年はあっという間に過ぎてしまう。
 それはアメリカ製薬との共同研究が終わることを意味する。
 つまり、長年の夢が潰えることになるのだ。

 3年か~、

 日本語で呟いた最上をニタス博士は不思議そうな表情で見ていたが、
「最上さんの帰りを待っています」
 と言って右手を出した。
 最上は無言でその手を握り返したが、笑みを浮かべることはできなかった。
 さっきまでの高揚した気持ちは消えて、追い込まれたような気分になっていた。
〈背水の陣〉という言葉が脳裏に浮かんだ。