「スナッチ、お前が曲作ってくれよ」

 ゼミの歓迎会が終わってすぐの頃、タッキーが突然言い出した。

「それ、いいな」

 ベスが頷いた。

「えっ、僕? 僕が?」

 戸惑っていると、ベスに肩を揉まれた。

「マンネリを打破しないとな」

 キーボーはちょっと不満そうな表情を浮かべていたが、取り立てて何かを言うことはなかった。

 突然のことだったので返事に困ってしまった。
 今まで一度も曲を作ったことがないからだ。
 しかし、バラードタイプの曲では速弾きが活かせないことも痛感していた。
 だからロックとまではいわなくても、もっとリズム感のある曲をレパートリーに加えたいと常々思っていた。
 しかしそう簡単に曲が作れるはずもないので、3人の視線を避けて部室の天井を見上げた。
 すると「なんのためにここに入ってきたんだよ」という焦れたような声が聞こえた。
 タッキーだった。

「作詞作曲がしたいから入部したんだろ」

 ベスの声だった。

 それはその通りだった。
 いつかは自分で曲を作って、それを演奏したいと思っていた。

「ぐずぐずしていると、俺たち卒業しちゃうぜ」

 ベスに肩を掴まれて大きく揺らされた。

 確かに、最終学年になっていた彼らに時間は残っていなかった。
 それに彼らが卒業したらバンドは解散することになる。
 ここで断ったらなんのインパクトもないまま1年が終わってしまうだろう。
 それでいいはずはない。
 彼らをガッカリさせたくないし、自分も不完全燃焼で終わりたくなかった。
 何も挑戦しないままバンドを終わらせるわけにはいかないのだ。
 そう思うと高揚してしまったせいか、
「自信はありませんが、やってみます」
 と口を滑らせてしまった。

 しまった、と思ったが、もう遅かった。
 おっ、というような顔をしたあとすぐに相好(そうごう)を崩したタッキーとベスに手を握られてしまったのだ。

「でも、あまり期待しないでくださいね」

 予防線を張るために呟いたが、彼らの耳には届いていなかった。

「楽しみだな~」

 気楽な声が返ってきた。