「ティン・ニタスです」

 席へ出向いてきた彼が自己紹介をして、ピアノ演奏に感激したと言って手を差し出した。

「最上極です」

 そう告げると、手を握ろうともせずに、一歩退いた。

「MOGAMI……」

 ブルーの瞳が驚きの光を放っていた。

「やっと会えましたね」

 しかし彼は口に手を当てて、まだ驚き続けていた。

「アメリカ製薬のティン・ニタス博士でいらっしゃいますね」

 すると彼は狐につままれたような顔で僅かに頷いた。

「MOGAMI……、あのMOGAMIさん……」

「そうです。その最上です」

 何度も電話し、その度に断られ続けていた相手、それが彼だった。
 アメリカ製薬のティン・ニタス博士。
 世界で初めて医療用経口発毛剤を開発した研究者。