ビル・エヴァンスの曲を3曲弾いて立ち上がり、一礼すると、温かい拍手が包み込んだ。
 笑顔で拍手に応えたが、それでも拍手は止まらなかった。
 席に戻る途中、ずっと拍手を続けている男性と目が合った。

 ん? 

 見覚えのある顔だった。
 しかし、誰だかわからなかった。

 顔だけ知っている人……、

 思い出せないまま席に戻り、ソファに身を沈めて、その男性に目をやった。
 まだ拍手をしていた。
 最上が軽く会釈をすると、男性がにこやかな笑みを返してきた。
 それを見た途端、思い出した。

 彼だ! 

 会いたくてたまらなかった彼だった。

 なんということだ。こんなことってあるのだろうか? 

 すると、笑美の笑顔が浮かんだ。

 ねっ、うまくいくって言ったでしょう。

 そうか、笑美が会わせてくれたんだ。

 君って最高だね。

 知っているわよ。

 声が聞こえたような気がした。