演奏が終わり、男性ピアニストが一礼をして席を立った。
 静かに、しかし、温かい拍手が送られた。
 ピアニストはもう一度頭を下げ、そして、店の出口へ向かっていった。

 最上はブランデーのお代わりを注文した。
 ウエイターが運んできた時、「次の演奏はいつからですか?」と尋ねると、申し訳なさそうな顔になって、

「次に演奏する予定だったピアニストが体調不良のため来られなくなったので代わりのピアニストを探しているのですが、見つからなければ今夜は……」

 と最後まで言い切らずに頭を下げた。

「あのう、ご迷惑でなければ、わたしが弾いてもいいでしょうか?」

「えっ?」

 ウエイターが戸惑いを見せた。

「お客様が、ですか?」

 最上はフィール・ソー・グッド本店でピアノを弾いていたことを説明した。

「少々お待ちください」

 ウエイターは足早に店の奥に向かった。