その夜、気合を入れるためにステーキ店に足を運んだ。
 ガッツリ食べたい気分だったので、Tボーンを900グラム注文した。
 
 ウエイターが運んできた大皿に、どでかい肉の塊が鎮座していた。
 50歳を超えた自分にこの肉の塊が食べられるだろうかと一瞬不安になったが、覚悟を決めた。

 勝負だ! 

 ベルトを緩めて一心不乱に(むさぼ)った。
 ガツガツと貪った。
 休憩なしで貪った。
 そして、食べ終わった時には赤ワインをボトル一本空けていた。
 最上はまるでライオンが舌なめずりをするように、口に付いた赤ワインを舌で拭った。

 ウォ~~~! 

 体の内側からほとばしる咆哮(ほうこう)を必死になって抑えた。
 しかし、抑えても抑えても内なる咆哮は止まらなかった。
 野獣のような猛々(たけだけ)しさが体中に漲っていた。
 不可能なことは何もない、そんな気持ちになっていた。