彼が歌い終わった時、ヤンヤの拍手が起こった。
 そして、矢継ぎ早に質問が飛んだ。

「ビフォー&アフターって、どんなバンド?」

「スナッチって誰?」

 彼はボリボリと頭を掻いて、ボソッと呟いた。

「オヤジが若い頃やってたバンド」

「えっ、お前のお父さん、バンドやってたの?」

 え~~! とみんなからどよめきが起こった。

 彼の名前は、木暮戸(きぼど)(れい)
 父親の名前は木暮戸弾で、ビフォー&アフターのキーボード兼ヴォーカル担当だったという。

「スナッチは?」

「うん。オヤジの友人で大学時代一緒にバンドを組んでいたらしいけど、プロになる時、彼は別の道を選んだと聞いたことがある。レコード会社に就職したとか言っていたような気がするけど……」

「スナッチって面白い名前ね」

「うん。確か本名は、〈す〉なんとかって言ってたけど……思い出せないな~」

 その時、ニキビ面の男子がこっちに向き直って指差した。

「須尚じゃないの? お前のオヤジ、レコード会社に勤めてるって言ってたよな」

 みんなの目が集中した。

 えっ、お父さん? 
 うそ、そんなこと聞いたことないし……、

 突然のことに狼狽えてしまった。

 まさかお父さんが……、

 カラオケどころではなくなった。
 同級生の歌も耳に入らなくなった。