須尚正 

「えっ、芸能大?」

 18歳になった麗華の進路について家族で話し合っていた時だった。
 予想もしていない大学名を告げられて、思わず大きな声を出してしまった。

 3歳からピアノを習っていたから音楽の素養はある。
 5歳からバレエを習っていたからダンスの素養もある。
 ルックスとスタイルは抜群だからアイドルの素養もある。
 でも、だからといって芸能大というのは理解できなかった。
 音大の間違いじゃないかと思った。
 それを質すと、麗華はすぐに反論した。

「クラシックには興味がないの。昔の人が作った曲を再演することに興味はないの。いくら上手に演奏したって、単なる演奏者でしかないから」

 聞いた途端、反論しそうになった。
 事実とは違うからだ。
 それに、〈単なる〉なんていう言葉で評価してはいけない。
 演奏家の存在価値を低くみなしてはいけないのだ。
 ましてや、音大はクラシックだけを教えているところではない。
 そんなことさえ知らないのに、と叱りつけたくなったが、ぐっとこらえて次の言葉を待った。