成田に到着して真っ先に顔が浮かんだのは、意外にも妻ではなく須尚だった。
 彼とはしばらく会っていなかったせいもあるが、仕事とはまったく関係のない人物であることも理由のように思えた。
 薬剤師である妻や会社の人間とでは、どうしても仕事のことに頭がいってしまう。
 しかし、それは避けたかった。
 今後のことをじっくり考えるためには一度頭をまっさらにした方がいいのだ。
 躊躇わず須尚に電話を入れた。
          
「久しぶりだな」

「ああ、本当に久しぶりだ。でも、アメリカにいるものとばかり思っていたからびっくりしたよ」

「うん。急に帰ることになってな」

「そうか。何か大変なことでもあったのか?」

「いや、そうじゃないんだけど」

 口ごもると須尚は怪訝そうな表情を浮かべたが、
「まあ、乾杯しよう」と言ってグラスを上げた。