いた! 
 あいつだ。

 思った通りだった。ヘッドフォンを装着していた。
 気づかれないように、そいつの背中が見える棚の陰にそ~っと移動した。
 そいつは体を揺らして無心で聴いているように見えた。

 曲が終わったのか、そいつはヘッドフォンを外して元に戻した。
 わたしは手元を見るために音を立てないようにして近づいた。
 すると、そいつはボリュームボタンを指でつまんで、ツマミを右側いっぱいに回した。

 やっぱりこいつだ!

 捕まえようと足を踏み出した。
 しかし、一瞬早く大柄な男性がどこからか飛び出してきてそいつの右腕を掴んだ。
 ユニフォームを着ていたので店員のようだった。