犯人を捕まえたら少しは気分が楽になって耳鳴りも軽減するのではないかと思い始めた。
 そうすると居ても立ってもいられなくなった。
 だから仕事が早く終わった時やなんの予定もない休日に犯人探しをするようになった。
 あの外資系メガチェーンへ行って怪しい奴を見つけることにしたのだ。
 愉快犯を許すことができなかったし、自分と同じ被害者を出したくなかったので、必死になって犯人を捜した。

 被害に遭ったハードロックのコーナーを中心に見回りを続けた。
 こんなことを面白半分にやるのは若者に違いない、
 そう決めつけていたので、だらしない格好の若者がいると気づかれないように少し離れたところからそいつをマークした。

 しかし、非常識なことをする若者は誰もいなかった。
 というよりも若者の方が試聴機やヘッドフォンの取り扱いが丁寧だった。
 まさか犯人は中高年? 
 と思ったこともあったが、
 いや、そんなことはない、社会経験が豊富で常識のある中高年がそんな愉快犯のようなことをするはずがないと、すぐさまその考えを打ち消した。