その夜から両耳に異変が起こった。
 不自然な音が聞こえるようになったのだ。
 シャー、
 キーン、
 その時々によって聞こえる音は違うが、なんとも表現できない気になる音が聞こえ始めたのだ。
 それは何日経っても治まらなかったし、寝る時などの静かな環境で特に大きく聞こえた。

 1週間経っても治らなかったので耳鼻科を受診した。

「耳鳴りですね」

 医者は無表情でカルテに病名を記載しながら告げた。

「大音量に晒された時などに起こることがあります」

 そして、衝撃的な言葉を口にした。

「完全に治すことは難しいので、一生の付き合いになるとお考え下さい」

 えっ、一生? 
 この、シャー、キーン、が一生続くの?

「薬はないんですか? 良く効く薬はないんですか?」

 藁にもすがる思いで訊いたが、医者は即座に首を横に振った。

「残念ながらありません」

 それを聞いて愕然とした。
 ショックで一瞬フラッとした。しかし、そんな事に気づくはずもなく、医者は淡々と薬の説明を始めた。
 循環改善薬とビタミン薬を処方すると言う。
 但し、あくまでも対症療法だと念を押された。

「これでしばらく様子を見ましょう。2週間後にまた来てください」

 医者はこっちを見ないで次のカルテを手に取った。